個人事業主の住宅ローンは、どこまでが経費になる?

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個人事業主が事業用スペースのあるマイホームを建てたり購入する場合、住宅ローンを経費にできるのか気になることでしょう。

住宅ローンの一部や住居費の一部を経費にすることは可能ですが、それぞれ要件があります。

住宅ローンや居住費をどこまで経費にすることができるのか、また住宅ローン控除との関わりについても解説します。

目次

事業用部分があっても、住宅ローンは適用できるか

個人事業主には個人商店や士業(税理士・司法書士等)、フリーデザイナーやフリーエンジニアなど、さまざまな業種の方がいます。

近年は、パソコンがあれば開業できる業種も増えているため、自宅の一部をそのまま事務所にする方も多いです。

そういった自宅開業の個人事業主にとって、事業用スペースのある自宅に住宅ローンを適用できるのか、また経費にできる部分があるのかは大きな関心ごとでしょう。

大前提、個人事業主も住宅ローンを組むことは可能

住宅ローンは、給与収入や事業所得といった契約者ご自身の収入を原資に返済するため、貸し倒れリスクが低いです。

そのため、住宅ローンの金利は不動産投資ローンなどと比較すると低く抑えられています。

また、事業用融資は融資内容によって金利の幅がありますが、出資法による上限は「15%~20%」です。

事業用スペースに住宅ローンが利用できれば、返済の負担が大きく変わる可能性があるのです。

ただし、どの程度適用できるかは金融機関による

結論として、個人事業主が事業用スペースのあるマイホームを購入・建築したとき、住宅ローンが組めるのかは、金融機関の判断によります。

一般的に、次の条件なら可能としている金融機関が多いです。

  • 居住用スペースが50%以上
  • 事業用スペースは、自身が事業を行うためのスペースであること(テナント等ではない)

建物すべてを住宅ローンにできる金融機関もありますが、「住居部分」のみ住宅ローンの対象とする金融機関が多いです。

住宅ローン申し込みの際は、事前に条件を把握しておきましょう。

※事業用スペースに住宅ローンが適用できない場合は、事業用ローンや融資、もしくは事業資金の支出を検討します。

住宅ローンで「経費」にできるのは

個人事業主の経費の概念と、住宅ローンの支払で経費にできる範囲を解説します。

個人事業主の経費とは

個人事業主の経費として認められているのは、「事業のための支出」です。

事業を運営するために必要な出費、と考えるといいでしょう。

その考えに基づくと、マイホーム、つまり「自宅に住むことでかかる費用」は、すべて経費の対象外です。

経費計上の大原則として、自宅兼事務所といった一つの建物の場合においても、費用を「住居用」と「事業用」のスペースや支出に分けて考えていかなければなりません。

面倒だからと住居部分もまとめて経費として計上してしまうと、誤った申告内容となってしまいます。

正しく申告しないと見なされた場合、「無申告加算税」や「延滞税」などのペナルティが課せられるリスクが生じますので、要注意です。

利息部分は経費にできる可能性がある

事業用スペースが住宅ローンの対象となるときも、「住宅ローンの借入額」自体は経費となりません。

というのも、そもそも借入額そのものは「支出」ではないため、経費にはできないのです。

ただし、借入額が事業に関連していれば、借入額(元金)ではなく、「利息」を経費にすることが可能です。

事業用スペースも住宅ローンの対象とできた(全額住宅ローンが適用できた)場合で考えてみます。

  • 住宅ローン全体のうち事業スペース部分が事業に関連する借入となる
  • 事業用スペースに対応する住宅ローンの利息部分が経費にできる

仮に4,000万円の住宅ローンを組んで、居住スペースが7割で。事業用スペースが3割なら住宅ローンの割合は次のようになります。

  • 居住用スペース 2,800万円
  • 事業用スペース 1,200万円

事業用と言えど、借入額自体は経費にはできないものの、借入額にかかる1,200万円の利息相当分は経費計上が可能です。

※経費は事業に関連した支出が対象、という前提を忘れないようにしましょう。

住居兼事業所で働く個人事業主の経費

居住用住宅に事業用スペースがある場合、住宅ローン以外にも住宅に関する費用の一部を、経費とできるケースがあります。

経費は所得額を減らすことにつながるため、結果として所得の額にかかる所得税を抑えることができます。

それぞれの経費の概要と、経費にする際の勘定科目を解説します。

減価償却費

減価償却とは、パソコンやデスク、エアコンなど一定価格以上の備品や設備が対象で、かかった費用を一定期間に分けて経費計上する会計処理です。

かかった費用を購入年度にまとめて経費計上するのではなく、次年度以降も経費として、分割して計上することができます。

また、どの品目がどの期間、経費計上が可能かは、その品目によって定められています。

例えば、パソコンなら4年間と定められています。減価償却により数年に按分して経費を計上することで、節税効果を2年目以降にも継続することができます。

勘定科目は「減価償却費」です。

参考:国税庁「No.2100 減価償却のあらまし

固定資産税

固定資産税は、保有する不動産に対して毎年かかる税金です。

自宅に事業用スペースがある場合、事業スペース部分を経費に計上できます。居住用スペースと事業用スペースの割合を算出する具体的方法は決まっていませんが、合理的な基準で計算することが求められています。

例えば、全体の床面積と事業用スペースの床面積の割合で算出する方法があります。

勘定科目は「租税公課」が一般的です。

電気・ガス・水道代

毎月の使用料のうち事業で使用した部分についても、経費とすることが可能です。

固定資産税と同じく、合理的な基準で計算します。業務時間や出勤日数で使用割合を出す方法があります(一日8時間業務を行っている場合、全体の1/3など)。

勘定科目は「水道光熱費」です。

修繕費

修繕費とは、資産の状態が悪くなったとき、購入時と同じ状態まで資産を回復させることです。

例えば、事業用スペースの窓ガラスが割れたので取り替えた場合や、事業用の複合機を修理したようなケースです。

原則として、事業用の資産のみが対象です。

ただし、資産の「原状回復」や「維持管理」が対象です。資産の価値が増加するような場合は「資本的支出」といって、修繕費以外の費用になるので注意します。

勘定科目は「修繕費」です。

参考 国税庁「No.1379 修繕費とならないものの判定

※経費について迷ったときは、国税庁に問い合わせたり顧問税理士に相談したりすることをおすすめします。

住宅ローン控除の利用は可能か

事業用スペースがある場合でも、居住用の床面積が半分以上であれば、住宅ローン控除の適用は可能です。経費ではありませんが、住宅ローン控除は所得税の還付が受けられるうれしい制度です。

また、住宅ローン控除の適用を目指す際は、いくつかの注意点があります。

住宅ローン控除の適用条件

住宅ローン控除の主な適用要件は、次のとおりです。

【住宅ローンの主な適用条件】

  • 購入(工事完了)から6カ月以内に居住していること
  • 控除を受ける年の12月31日まで引き続き居住していること
  • 住宅の床面積が50平方メートル以上であり、かつ床面積の2分の1以上が居住用。その場合、控除を受ける年の合計所得金額が3,000万円以下であること。
  • 住宅の床面積が40平方メートル以上であり、かつ床面積の2分の1以上が居住用。その場合、控除を受ける年の合計所得金額が1,000万円以下であること(※)
  • 住宅ローンの返済期間が10年以上であること
  • 親族等からの購入でないこと など

※2024年12月31日までの特例措置

上記の「3」「4」にあるように、50%以上が居住用であることが必要です。

ただし、必要な条件を満たした場合も、住宅ローンの控除を受けられるのは「居住用部分」のみです。

例えば60%が居住用スペース、40%が事業用スペースである場合、要件を満たせば住宅ローン控除が受けられますが、対象となるのは60%のみです。

住宅ローン控除がすべて適用できるケースも

原則は、居住用スペースのみが住宅ローン控除の対象となります。

しかし、事業スペースの割合が10%以下の場合は、事業用スペースも含めた100%が住宅ローン控除を受けることが可能です。

なお、事業用スペースを10%以下にしたときは、固定資産税や水道光熱費の割合も10%以下にするのが妥当でしょう。

住宅ローン控除は受けられますが、その分、他の経費に算入できる割合も減るといえます。

住宅ローン控除の適用は「確定申告書」が必要

住宅ローン控除の適用を受けるためには確定申告が必要です。

給与所得のみの会社員であれば、多くの場合は年末調整で済みますが、個人事業主の場合、毎年確定申告が必要です。

個人事業主の方であれば、確定申告をする際、住宅ローンの控除申請をうっかり忘れないようにしましょう。

※自宅開業の個人事業主が住宅ローン控除を受けるときは、要件や申請(確定申告)に注意が必要です。

事業用スペースがある場合のシミュレーション

借入額3,000万円、うち事業用部分は3分の1とした場合の利息と住宅ローン控除のシミュレーションを紹介します。

利息のシミュレーション

  • 借入額3,000万円(うち事業用部分は3分の1)
  • 返済期間35年/利息2%

の場合、当初の利息額は次のとおりです。

【元本と利息の割合(第1回支払)】

毎月返済額99,378 円
元本49,378円
利息50,000円

※住宅金融支援機構のシミュレーションを使用

第1回の支払利息は5万円ですので、約16,666円(=5万円÷3)が、利息として経費にできる計算です。

利息割合については、借入先金融機関から「返済明細表」等を出してもらえば確認可能です。

「住宅ローン控除」適用額のシミュレーション

  • 借入額3,000万円(うち事業用部分は3分の1)
  • 返済期間35年/利息2%

の、場合の初年度の住宅ローン控除額を紹介します。

住宅ローン控除の控除率は年末の住宅ローン残高×0.7%です。

計算上3,000万円にそのまま控除率をかけた時の控除額は次のとおりです。

住宅ローン全体に住宅ローン控除が適用される場合

・3,000万円×0.7%=21万円

居住用スペースのみに住宅ローン控除が適用される場合

・3,000万円×2/3×0.7%=14万円

このように、控除額に差が出ます。

目安として、年収500万円程度の方の所得税は13万円前後とされています。

よって、住宅ローン控除が2/3になっても、このケースであれば、所得税全額の還付を受けられそうです。

個人事業主が住宅ローンを組む時の特徴と注意点を知っておこう

住居兼事業所で住宅ローンが適用できるかは、割合によって決まることが多いです。

そして、住宅ローンでも事業用ローンでも、経費になる対象は「事業用スペースの利息のみ」と決まっています。

うっかり経費にできないところまで経費にしてしまうと、誤った確定申告となってしまいます。

たとえ悪意はなくとも、申告が誤っていれば「無申告加算税」や「延滞税」などのペナルティが課せられてしまうかもしれないので注意が必要です。

また、住宅ローン控除の適用にも条件があります。個人事業主が事業用スペースのある住宅を購入する際は、住宅ローンや住宅ローン控除の対象や条件をしっかりと知ることが重要です。

住宅購入と、適切な経費計上による節税を両立させていきましょう。

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この記事を書いた人

お金に関する基本的な知識から貯金のコツ、資産形成まで幅広く伝えるメディア「@nextマガジン」の運営を行っています。ここにくれば、お金の悩みが解決できる「お金の広辞苑」を目指して日々記事を公開中です。本当にタメになる情報だけを厳選してお届けします。

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