住宅ローンを契約したとき、物件に抵当権が設定されます。
そして、住宅ローンを完済したあとは、自分自身で抵当権を抹消する手続きを行わなければなりません。
抵当権の登記を抹消せずにそのままにすると、物件を売却するときや相続が発生したときに手続きが面倒になるため、住宅ローンを完済したら早い段階で抵当権抹消を行いましょう。
今回の記事では、抵当権を抹消するときの流れや必要な費用について解説します。
抵当権抹消登記の方法で悩んでいる方に役立つ内容となっているので、参考にしてみてください。
住宅ローンを完済しても抵当権は自動で抹消されない
住宅ローンを完済したあとは、自分自身で抵当権の抹消手続きを行う必要があります。
完済に伴って、抵当権は自動的に抹消されないためです。法務局に対して「抵当権抹消登記」を行うことで、物件に設定されている抵当権が抹消されます。
抵当権とは、債権者である金融機関が不動産を担保にする権利です。
債務者がローンを返済できなくなったとき、債権者が債務者の不動産を競売にかけて売却し、売却代金から優先的に弁済を受けられます。
抵当権の抹消を行わないと、物件を売却したいときや担保に供したいときに面倒な事態になりかねません。
そのため、住宅ローンを完済したら、忘れずに抵当権を抹消する手続きを行いましょう。
抵当権抹消を自分で行うときの流れ
抵当権抹消の手続きは、専門的な知識がなくても自分で行えます。住宅ローンを完済した方や、まもなく完済予定の方は参考にしてみてください。
以下で、具体的な流れを解説します。
①金融機関から抵当権抹消に関する書類が届く
住宅ローンを完済すると、金融機関から抵当権抹消に必要な書類が届きます。
- 抵当権解除証書(放棄証書等と呼ばれることもある)
- 銀行からの委任状
- 登記済権利証(登記識別情報通知)
- 登記事項証明書
- 委任状
いずれの書類も、法務局で抵当権抹消の手続きを行う際に欠かせません。紛失しないよう、大切に保管してください。
ただし、登記識別情報または登記済証は再発行できません。
紛失した場合は、司法書士に本人確認情報の作成を依頼する手間が発生するため、時間的にも経済的にも負担が重くなります。
②抵当権抹消登記申請書を作成する
法務局のホームページで「抵当権抹消登記申請書」をダウンロードし、作成します。
法務局の窓口では登記申請書の用紙を備え付けていないため、注意しましょう。
なお、登記申請書の各項目で書くべき内容は以下のとおりです。
登記の目的 | 「抵当権抹消登記」と記載 |
---|---|
原因 | 「○○年○月○日 弁済」と記載 |
権利者 | 債務者(自分)の情報を記載 |
義務者 | 金融機関名・金融機関の代表者名を記載 |
添付情報 | 添付する書類の名前を記載 |
申請日の情報 | 申請日を記載 |
申請人兼義務者代理人 | 金融機関から発行された委任状に記載した申請人の情報を記載 |
登録免許税 | 登録免許税として支払う金額を記載 |
不動産の表示 | 抵当権設定契約証書の裏に書かれている内容を記載 |
不明点がある場合は、法務局に問い合わせてみるとよいでしょう。
③管轄の法務局へ申請する(持参・郵送・オンライン)
抵当権抹消登記申請書を作成したら、金融機関から送られてきた必要書類をまとめて、不動産を管轄する法務局へ提出します。
自分の住所を管轄する法務局ではなく、不動産を管轄する法務局が提出先となるため、間違えないように注意しましょう。
提出方法は
- 持参
- 郵送
- オンライン
の、3通りがありますが、オンラインでの手続きが便利です。
ただし、オンラインで行う場合はマイナンバーカードが必要で、マイナンバーカードにより電子署名をする際にはICカードリーダーが必要です。
④登記完了の書類を受け取る
必要書類提出後、不備や誤りがなければ約1日〜10日程度で抵当権抹消の手続きは完了します。
手続きが完了すると、法務局から登記完了証が交付されるため、大切に保管しましょう。
登記完了証は、法務局の窓口か郵送で受領できます。窓口で受領する場合は登記申請書に押印したときの印鑑が必要となるため、忘れずに持参しましょう。
郵送により受領する場合は、必要書類を提出するときに宛名を記載した返信用封筒と切手をあわせて提出する必要があります。
登記完了証を受け取れば、抵当権が抹消されたことを意味します。
本当に抵当権が抹消されたか確認したい場合は、「登記事項証明書」を取り寄せて確認してみてください。
抵当権抹消を行うときに必要な費用
自分で抵当権抹消の手続きを行う際、2,000円程度の費用が掛かります。
抵当権を抹消するための登録免許税として、不動産1件につき1,000円かかります。
建物と土地に抵当権が設定されている場合、2件あるため2,000円が必要です。
また、事前に不動産の状況を調査するための費用として、400円〜600円程度の費用がかかります。
登記事項証明書を発行してもらうとき、または法務局の「登記情報提供サービス」で確認するときに発生する手数料です。
しかも、抵当権抹消手続きを完了させたあと、抹消ができているか確認したい場合も400円〜600円程度の費用がかかります。
確認する方法は、事前に不動産の状況を調査するケースと同じです。
抵当権抹消を忘れたときに起こり得る問題
抵当権を抹消しなかったからといって、すぐに問題が起こるわけではありません。
しかし、その後の手続きが面倒になるケースが考えられます。
以下で、抵当権の抹消を忘れたときにどのような問題が発生するのか解説します。
スムーズに売却できない
抵当権が設定されている物件は、一般的に買い手がつかず売却がスムーズに進みません。
将来的に保有している不動産を売却したいと考えたとき、不利を被る恐れがあります。
抵当権が抹消されずに残っていると、第三者は抵当権がある物件と判断します。
買い手からすると「いつ金融機関に差し押さえられるかわからない」状態です。完済証明書があったとしても手続きが行われていないこと自体、敬遠されてしまうのです。
不動産は、そもそも価格が高いため流動性が低い資産です。
抵当権があると、より売却しづらくなるため、スムーズに売却するためにも抵当権を抹消することが欠かせません。
物件を担保にして融資を受けられない
保有している物件を担保にして融資を受ける場合、抵当権が残っていると担保として認められません。
あるいは、担保評価額が著しく下がり、受けられる融資が少額になってしまう可能性があります。
抵当権は、一つの物件に複数設定できます。しかし、抵当権を登記した債権者から優先的に弁済を受けられるため、第二順位以下の抵当権設定には応じない金融機関も少なくありません。
そのため、今後物件を担保にして何らかの融資を受ける可能性がある場合は、早い段階で抵当権抹消の手続きを進めましょう。
保有者に相続が発生すると手続きが面倒になる
抵当権を抹消しないまま相続が発生すると、相続人の手続きが増えてしまいます。
相続人が被相続人に代わって抵当権抹消登記を行わなければならず、相続関連の煩雑な事務負担が重くなってしまうのです。
相続直後は、健康保険や年金をはじめとした役所での手続きや、場合によっては相続税の計算などを行う必要があります。
ほかにも、葬儀や法要などの準備を進めなければならず、相続人は慌ただしい日々を送るケースが想定されます。
不動産を取得した相続人は、登記情報だけ見ると「まだ住宅ローンが残っている」と勘違いしてしまい、相続放棄を選択してしまうリスクも考えられます。
相続人を混乱させないためにも、抵当権抹消は済ませておくべきです。
自分で抵当権抹消できないときは、司法書士に依頼できる
「自分で抵当権抹消を行えるか自信がない」というときは、司法書士に依頼する方法があります。
司法書士は登記の専門家なので、抵当権抹消手続きに精通しています。
自分で行えるか自信がない場合は、専門家である司法書士に依頼するのが無難といえるでしょう。
また、必要書類を紛失してしまった場合も、司法書士に頼ったほうがスムーズに手続きを進めてもらえます。
なお、司法書士に抵当権抹消登記を依頼する場合の費用は、1万円~2万円程度が相場です。
複数の司法書士事務所をピックアップし、比較検討してみてください。
住宅ローン完済前に売却したい場合は「任意売却」を検討
これまで解説してきた抵当権を抹消する方法は、住宅ローンを完済した人が行うケースを想定しています。
しかし、現在住宅ローンを返済中の方でも、抵当権を抹消できます。
住宅ローンを完済する前に保有している物件を売却したい場合は、任意売却という方法を検討しましょう。
もし物件の売却代金が住宅ローンの残債を下回っている場合、不足分を手元の資金で補填しなければなりません。
手元資金が不十分で完済できない場合は、抵当権を抹消できないため、原則として不動産の売却ができません。
ただし、任意売却においては、金融機関の了承が得られれば、抵当権を解除したうえで売却が可能です。
債権者である金融機関に相談したうえで、売却する不動産を不動産会社に査定してもらい、売却するのが具体的な流れです。
任意売却は、早く不動産を売却したい事情を抱えているときや、経済的に住宅ローンの返済が厳しい状況に陥っているときに検討する余地があります。
ただし、金融機関が売却を急ぎたい事情があることから、一般的な市場取引よりも売却価額が低くなってしまう可能性がある点には注意が必要です。
まとめ
住宅ローンを完済したあと、物件の抵当権抹消登記は自分で行えます。
金融機関から届く書類を大切に保管し、抵当権抹消登記申請書とあわせて不動産を管轄する法務局に提出しましょう。
抵当権抹消を行わずに放置すると、売却するときや物件を担保に融資を受けるとき、相続が発生したときに面倒になる恐れがあります。
住宅ローンを完済したら、速やかに抵当権抹消を済ませるとよいでしょう。