【2025年9月版】実質値上がり商品と、なぜインフレが起きているのかを易しく解説

2025年9月も日本では幅広い品目で値上げが相次ぎ、家計への負担増が続きました。
帝国データバンク『「食品主要195社」価格改定動向調査 ― 2025年9月』では、2025年9月の飲食料品値上げは1,422品目と公表。
2025年通年(11月公表分まで)の累計は2万34品目とされ、2年ぶりに2万品目を超えています。
食品では調味料(たれ・ソース・マヨ等)が(427品目)と最も多く、次いで加工食品(338品目)、お菓子類(291品目)、乳製品・冷菓(138品目)など生活に身近な分野で広く値上げが実施されました。
原材料費やエネルギーコストの高騰を背景に、食用油(サラダ油・キャノーラ油など)や米菓、スナック菓子、冷凍食品、アイスクリームといった日常的に購入する食品が軒並み値上げされており、家計へのインパクトは大きなものとなっています。
こうした食品以外にも、日用品やガソリン、電気・ガス料金など生活必需品の価格上昇が続いています。
例えば、一部の生活雑貨では大手メーカーが9月に再度の価格改定を行い、紙製品や家具・文具などの価格が引き上げられました。
また、ガソリンの店頭価格は政府補助金の減額や原油高の影響で上昇傾向となり、9月初旬時点のレギュラーガソリン全国平均価格は1リットルあたり174.8円(2025年9月8日)と前週から0.7円上昇し、4週ぶりに値上がり※しました。
※ 政府の『燃料油価格定額引下げ措置』の当週支給額10.0円

エネルギーや食品など生活必需品の値上げが相次ぐことで、とりわけ低・中所得層の家計ほど負担が増す傾向にあり、消費者生活への深刻な影響が懸念されています。
【2025年9月】値上がりした具体的な商品・サービス一覧
2025年9月に実際に価格改定(値上げ)が実施された主な商品・サービスの例を、旧価格・新価格・上昇率とともに以下の表にまとめます(※全て2025年9月実施の値上げ)。
いずれも生活に密着した食品・日用品・エネルギー関連であり、家計への影響が大きい品目です。
品目(商品・サービス名) | 旧価格 | 新価格 | 値上げ率 | 実施時期 |
---|---|---|---|---|
永谷園「カップ入りお茶づけ海苔」(即席茶漬け) | 200円(税抜) | 240円(税抜) | +20.0% | 9/1 納品分〜 |
キユーピー「マヨネーズ」(レギュラー・450g) | 520円(税込) | 559円(税込) | +7.5% | 9/1 出荷分〜 |
明治「エッセルスーパーカップ 超バニラ」(200ml) | 170円 | 180円 | +5.9% | 9/1 出荷分〜 |
無印良品「再生紙トイレットペーパー 5倍巻シングル(4個)」 | 599円 | 699円 | +16.7% | 9/5〜 |
無印良品「炊き込みごはんの素 金目鯛ごはん」 | 390円 | 490円 | +25.6% | 9/5〜 |
無印良品「キンパ(プルコギ)」〈冷凍〉 | 650円 | 750円 | +15.4% | 9/5〜 |
日清オイリオ「家庭用 食用油」 (例:日清キャノーラ油 1000g 等) | ー | ー | +11〜18%(家庭用) | 9/1 納入分〜 |
ぼんち(米菓ほか)一部製品 | ー | ー | (実質)+3〜7% | 9/1 納品分〜 |
チャンピオンカレー(外食・小売の一部) | ー | ー | 平均+約13% | 9/1〜 |
長崎バス(長崎市中心部 初乗り運賃) | 160円 | 190円 | +18.8% | 9/1〜 |
長崎県営バス(一般路線 全線・平均) | ー | ー | +17.4%(平均) | 9/1〜 |
再エネ賦課金(電気料金に上乗せ) | 3.49円/kWh | 3.98円/kWh | +14.0% | 5/検針〜翌4/検針 |
レギュラーガソリン全国平均(1L) | 約174.1円(8月末週) | 174.8円(9/8時点) | +0.4% | 9/8 時点 |

上記はほんの一部で、これら以外にも、多数の食品・生活必需品が2025年9月に値上げされています。
「インフレ」の定義と日本に関連する状況を概要解説
そもそも、私たちの生活を直撃している一連の止まらない「値上げラッシュ」の背景には、インフレ(インフレーション)が存在します。
まずはインフレと日本に関連する状況を解説します。
インフレとは貨幣の価値が下がる現象のこと
「インフレ」(インフレーション)とは、物価が継続的に上昇し、貨幣の価値が下がる現象を指します。

ここでは、なぜインフレーション(インフレ)が発生しているのか、私たちの生活を取り巻く主要因について紹介します。
インフレの種類と日本の現状
インフレには大きく分けて、
- 需要超過による「需要インフレ」
- 原材料費や人件費などコスト上昇による「コストプッシュ・インフレ」
の2種類があります。
インフレ自体は単独では良いものとも悪いものとも言えませんが、現在の日本の物価上昇は主に後者の要因によるものと分析されています。
つまり、インフレによって原料の輸入価格などが上昇し、企業がモノを製造する際の生産コストが上がり、収益を確保するためにその負担増を価格に反映(値上げ)させることで生じたインフレです。
原材料費や人件費の高騰、製造国の物価上昇が要因として大きく、日本国内の旺盛な需要といったポジティブな裏付けが中心ではない点が特徴です。

消費者の収入が上がり、収入が上がることで物価も上がるという成長を意識させるインフレではないからこそ、「値上げが苦しい」と多くの方が感じる実情に繋がっています。
日本ではインフレ>実質賃金の伸びとなっている

日本銀行もこうした状況下で大規模緩和策(超低金利政策)を一定水準以上維持しており、金融面から需要を刺激する政策を続けています。
一般的にはインフレ時には金利を引き上げ、銀行や住宅ローンなどの貸し借りを抑制すること(金利が低いと借りた方が得な世の中になるため)で需要による高騰を落ち着かせようとするのが一般的です。
しかし日本の場合、物価上昇は先述の「コストプッシュ型」が中心で、需要が強すぎて価格が上がっているわけではないため、金利を上げて需要を抑えてしまうと景気腰折れリスクが高いことが理由です。
つまり、買いやすく、借りやすくすることで購入を促進させることで景気・賃金の下支えを狙うのが、昨今の日本における景気対策となっています。

昨今では日本でも賃金上昇に伴い金利を上げる動き※も見られます。
しかし、このように実質値上げが続く現在では、日銀もおいそれと大胆な利上げには踏み切れず、慎重になっているのが実情です。
※ 実質賃金は月によりマイナス継続の局面が長かったのですが、直近ではプラス転換の月も出始めてはいます。日銀は2025年9月会合での据え置き観測が優勢で、年内の追加利上げ観測も一部に残る状況です。
インフレは本来「実質賃金の伸び」とセットが望ましい
一方でコスト増に起因する物価高は家計に負担を強いる構造的な問題となっています。
とくに海外輸入に依存している日本では、モノやサービスの物価上昇率が日本に居住する消費者の購入力に直結する国内賃金の伸びを上回っているため、実質的な購買力が低下(=生活が苦しい状況)が指摘されています。

以下では、なぜ近年、日本でこのような物価高騰(インフレ)が止まらないのか、その背景要因を具体的に解説します。
【値上げラッシュ】日本のインフレを起こしている主原因を紹介
そして今、日本で起こっているインフレの主な原因となっている事象を紹介します。
原材料高騰・エネルギー価格上昇の影響
まず大きな要因として、原材料価格の高騰とエネルギー価格の上昇があります。
コロナ禍からの影響がなお残る
世界的には2020年頃から新型コロナの流行によって供給の制約や需要の変化が起こり、農場や工場の労働者不足による供給不足や国内優先に回すことで輸出規制が発生したことで、食料や資源の国際価格が上昇基調に入りました。
ロシアのウクライナ侵攻が大きく影響
さらに拍車をかけたのが2022年以降のロシアによるウクライナ侵攻による影響です。
ウクライナとロシアは共にエネルギー資源や穀物の主要供給国であり、両国の紛争は世界的な原油・天然ガス価格の高騰や小麦・トウモロコシなど穀物価格の上昇を招きました。
ロシアから輸入しており価格影響度が高いもの
- LNG・石炭・原油
サハリン2などロシア産LNGは日本にとって重要な調達先。ウクライナ侵攻後、欧米がロシア産エネルギーを制裁対象にしたことで国際市場が逼迫、日本の電気・ガス料金に大きな影響。 - パラジウム・ニッケルなど
制裁や物流混乱で調達が難しくなり、自動車・電子部品の原材料価格が国際的に高騰。
ウクライナから輸入しており価格影響度が高いもの
- トウモロコシ・小麦
黒海ルートが戦争で不安定化し、輸送が滞ることで国際相場が急騰。日本は直接の輸入比率は北米や豪州より小さいものの、世界価格の上昇がそのまま日本の飼料価格や小麦価格に転嫁されました。結果、パン・麺類、畜産物(肉・乳製品・卵)の価格上昇に波及しています。

ちなみに、日本など西側諸国はロシアへ経済制裁を行っているものの、ロシアからの水産物(カニ、サケ、イクラなど)は制裁対象外となっており輸入を継続しているため価格への影響は小さいです。
一方、直接輸入していなくても間接的に世界の供給バランスが崩れてしまうと、まわりまわって日本での価格にも影響します。
円安と日本の輸入依存体質

日本国内の物価高には、急速な円安(円の対ドル価値下落)も大きく影響しています。
一昔前の「アベノミクス」が円安の土台を作ったとも言えますが、主な政策としては
金融緩和の長期化
2013年以降、日銀は黒田総裁のもとで大規模な金融緩和(異次元緩和)を実施。
国債やETFを大量に買い入れ、金利をほぼゼロ以下に固定。
その結果、「日本は低金利を長期で続ける国」という市場の前提が定着。
円安を政策的に容認
アベノミクス初期の狙いは「円安で輸出企業を支援し、デフレを脱却する」こと。
2012年末ごろ1ドル=80円台だった円相場は、数年で120円近くまで下落(円安方向に)。
円安になったことで日本企業の商品にお買い得感が生まれ、日経平均株価も上昇したことで「円安=悪ではなく経済刺激策」として受け入れられた。
財政・構造改革との関係
上記の金融緩和に依存しすぎ、構造改革や財政健全化が十分に進まなかった面もある。
そのため「成長力の弱さ+巨額の国債発行=金利を上げられない国」という構図が固定化してしまいました。
といった状況を呼び込んでいます。

実際、アベノミクスは功罪両面あると考えられます。
しかし、円安にしすぎたことで円の価値が落ちてしまい、企業の輸出はお買い得感が生まれたものの、原料も含めた輸入品を買う消費者としては物価高騰の要因になってしまったという点は否めません。
円安の輸入品高騰の考え方
先述の通り、日本は食料やエネルギーをはじめ多くの必需品を海外から輸入していますが、為替相場で円安が進行すると、輸入品の調達に必要な支払い額(円建て)が増加するため、その分が国内価格に上乗せされてしまいます。
現在も日米の金利差が円安を呼び込んでいる
円安が進んだ背景には、日米の金利差があります。インフレ抑制のために米国が金融引き締め(利上げ)を行う一方、日本銀行は低金利政策を維持しました。
金利差が開くと投資マネーは利回りの高いドルに流れ、相対的に円が売られるため円安ドル高が進行します。
この構図により、2022~2023年にかけて1ドル=150円前後の歴史的な円安水準が生じ、現在も多少の振れ幅はありますが概ね近しいレンジで推移しています。

ただし、日本も先述の通り賃金が上がったことで価格が高騰しているわけではない「コストプッシュ・インフレ」であるため、それを抑制するために安易に利上げを行うことが難しい現状です。
経済政策の結果として生まれた構造や、コロナや紛争といったコントロールできない要因のダブルパンチが、結果として望まないインフレにつながっています。
自給率の低い燃料と小麦が特に影響大

円安により輸入コストが増大した典型例が燃料と小麦です。
原油や穀物はドル建て取引のため、円安だと同じ数量でも支払う円額が増え、そのまま国内のガソリン価格や小麦製品価格の上昇要因となりました。

実際にガソリン価格は円安が是正されない限り高値圏が続きやすく、政府は一時、補助金で小売価格抑制に動いたものの根本解決には至っていません。
日本は「燃料」「小麦」自給率の劇的な改善は難しい
- 短期的には:原発再稼働・省エネ・燃料調達先の多角化などでリスク緩和は可能だが、即効性は限定的。為替も日銀と米国の金利差に左右され、政治で完全に制御できるものではない。
- 中長期的には
- 再エネ拡大や原発活用 → エネルギー自給率を引き上げ可能。
- 食料については、農地や労働力制約から 劇的な自給率改善は難しい。ただし「飼料の国産化」「国産小麦の拡大」など一定の余地はある。
- 為替リスクに強い経済構造(海外投資収益の活用や輸出競争力強化)を作る方向が現実的。

そのため、できることをやりつつ円の価値を一定程度は維持する(円高を維持する)ことが、私たち消費者の購入価格への安定化にはつながります。
こういった要因に対しても日本企業の多くは長年にわたり「価格据え置き」で企業努力によるコスト吸収を図る傾向が強く、消費者物価の伸びは抑えられてきました。
しかし近年の原料高・円安によるコスト増は企業努力の限界を超えており、企業が価格転嫁(値上げ)に踏み切るケースが急増した結果、2022年頃からは主要メーカーが相次いで希望小売価格の引き上げを表明して今日に至ります。

企業側も原材料費・物流費の高騰分を価格に反映せざるを得ず、結果として消費者がその負担を負う構図です。
人手不足による人件費の高騰も値上げ要因
また、日本経済全体では少子高齢化による労働生産年齢層、中でも特に若年層人手不足が深刻化しており、企業は人件費の上昇にも直面しています。
高齢化や労働力人口の減少に伴い、特に物流・外食・サービス業を中心に人件費(賃金)が上がっており、そのコストも商品・サービス価格に転嫁される一因となっています。
例えばトラック運賃や工場の人件費上昇や法規制などは食品の物流コスト増となり、商品の値上げ要因となっています。

賃金上昇自体は本来歓迎されるべきものの、現在の日本では物価上昇に見合うほど実質賃金が伸びていないという状況のため、企業は利幅確保のためにやむなく価格へ上乗せする動きも出ています。
手取りが増えない原因には税や社会保険料も
さらに、日本の保険制度の維持のために、割合が多くなっている高齢者を中心とする医療費や年金を支えるための社会保険料も年々上昇しています。
そして「見かけの賃金は上がっても手取りが増えない」というのはつまり、額面年収が上がっても手取りは思うように上がらず、さらに生活必需品の価格が上がっていることに起因します。
このように、
- 企業のコスト増(原材料・エネルギー・人件費)→価格転嫁
- 賃金が上がっても税や社会保険料で手取りが上がらない
という流れが複合的に作用し、インフレと“価格高騰による苦しさ”が持続している状況です。
まとめ|物価高の構造的原因と今後も続く可能性
以上の観点から、日本の物価上昇が収まらない背景には構造的な要因があることが分かります。
主な要因を整理すると、
- 原材料・エネルギーの海外価格高騰
- コロナ時代の影響による物流の供給制約
- アベノミクスの結果、今日に連なる円安による輸入コスト増大
- 輸入依存が高い日本の経済構造
- 企業のコスト増・賃上げによる価格転嫁
といった複合要因が重なっています。
さらに、額面の賃金が上がっても、上記のような物価高と少子高齢化による社会保障の負担などが増大しているという状況から、私たちの生活に直撃している実情です。

インフレ自体は単独では良いことでも悪いことでもありません。
問題は「インフレが起こっても賃金からの手取りが上がらずにモノの価格だけが上昇し、買いにくい生活の苦しさを感じる」という点です。
総じて、現在の物価高騰は「国際的な原料高」と「円安」という日本経済の弱点を突いた構造的インフレです。
私たちがこの問題に対し、変数部分に対して根本的に可能な限りの解決に向かおうとするか、それとも、なんとなくやなすがままで終わらせるか。
一人一人が現状や原因を正しく把握して、私たち自身の行動や政治・経済に対する評価を下すことが求められます。