終身雇用&経済成長が当たり前の時代とは異なり、現在は定年退職時にまとまった退職金を受け取るのが、当たり前ではなくなりつつあります。
バブル期のように高額な退職金を得ることは難しくなり、企業が退職金制度を縮小・廃止したり、確定拠出年金(DC)へ移行するケースも増えているためです。
実際、大手企業ではまだ退職金が比較的多いものの、特に中小企業では「退職金がない」「制度はあっても金額がわずか」という例が多く、退職金に頼った老後資金計画はリスクが高いと言えます。
よって、若年層のサラリーマンなどは企業の退職金だけでなく、iDeCoなどの資産形成を検討した方が良いでしょう。
「5年ルール」が「10年ルール」に変わる可能性も取り沙汰されていますが、このルールに関しては、そもそも退職金がない人の場合、課税上の影響は小さく済む可能性が高いです。
本記事では、FPの資格を持つ私「ねくこ」が、退職金の現状や金額推移を概観しながら、自助努力による老後資金づくりの重要性をお話します。
退職金がある会社の割合
厚生労働省の調査データ
退職金制度が存在する企業の割合を把握する際によく参照されるのが、厚生労働省の「就労条件総合調査」です。
最近の調査結果を見ると、全体の8割前後の企業が何らかの退職金制度を設けているとされています。
ただし、これは企業規模(従業員数)による大きな違いがある点に注意が必要です。
大企業の多くは制度を設けていますが、中小企業になるほど導入率が下がる傾向にあります。
具体的には、たとえば従業員1,000人以上の企業であれば9割以上が退職金制度を有している一方、従業員が数十名以下の小規模事業所では退職金制度がないケースも珍しくありません。
このため「全体で8割」と聞いても実感と乖離が生じやすく、特に中小企業で働く人にとっては、実際には退職金を支給してもらえる可能性がかなり低いことも多いのです。
経団連など民間団体の調査
経団連(日本経済団体連合会)が定期的に公表する「退職金・年金に関する実態調査」も、退職金制度の現状を把握するうえで参考になります。
こちらでは、企業規模別の導入率や平均支給額、確定拠出年金(DC)との併用状況など、かなり詳細なデータがまとめられています。
この調査でも、大企業が中心とはいえ、大企業の中でも「従来型の退職金制度」と「確定拠出年金型」に移行する企業の割合が増えており、従来の一時金としての高額な退職金を期待しづらくなっている傾向がうかがえます。
企業規模で大きく変わる“退職金のある・なし”
こうした統計から分かるのは、
という二極化が進んでいることです。
特に中小企業の場合、「退職金制度を設けている」と回答していても、実際に定年退職時に受け取る金額が少なく、思ったほど役立たないケースがあるため要注意です。
また、転職や早期退職などで勤続年数が十分に積み上げられず、結果として期待ほど退職金を受け取れないことも多くなっています。
さらに、企業の業績や雇用制度の変更によっては、退職金の受給要件や計算方法が変わるリスクも否定できません。
こうした現状を踏まえると、「自分の会社は退職金制度があるから大丈夫」と楽観視するのは危険です。
次章では、実際の支給金額がどの程度推移しているのかを見ていきましょう。
支払われる退職金の金額推移
出典:厚生労働省「就労条件総合調査」などを参考に作成(概算値を含む)
過去数十年を振り返ると、バブル期前後の1980年代後半~1990年代初頭は、大企業を中心に退職金の水準が極めて高かったといわれています。
しかし、その後の不況や経営環境の変化、年功序列制度の見直しなどによって、企業全体として退職金制度が徐々に変化してきました。
厚生労働省の「就労条件総合調査」や民間調査機関のレポートなどを見ると、平均退職金額は1990年代後半から減少傾向という結果が示されています。
そして、この「平均値」というものは、退職金を支給している大企業の高額支給実績が含まれるため、実態よりも高く見えている可能性があります。
一方、近年は確定拠出年金(DC)など、従来の一時金とは異なる形で退職時の給付を受け取る制度が増え、従来型の「退職金としての一時金」を比較しづらくなっています。
企業規模・業種によるばらつきもある
業種 | 高校卒の退職金 |
---|---|
建設業 | 1133万4000円 |
製造業 | 999万6000円 |
情報通信業 | 941万8000円 |
運輸業、郵便業 | 1142万8000円 |
卸売業、小売業 | 1036万7000円 |
金融業、保険業 | 1073万6000円 |
不動産、物品賃貸業 | 513万6000円 |
学術研究、専門・技術サービス業 | 1026万1000円 |
宿泊業、飲食サービス業 生活関連サービス業、娯楽業 | 716万9000円 |
教育、学習支援業 | ー |
医療、福祉 | 332万3000円 |
サービス業(他に分類されないもの) | 995万8000円 |
東京都産業労働局 「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)」を基に作成
また、退職金の金額を語るうえで見逃せないのが、企業規模や業種による大きな差です。
一般的に、製造業・金融業などの大企業では依然として高水準の退職金が維持されている一方、中小企業やサービス業の一部では長らく低水準のままで推移しています。
加えて、同じ会社でも勤続年数や役職、業績連動型制度の採用状況などによって、個人ごとの受給額に差が生じています。
まれに「退職金規定はあるけれど、結局は業績不振で上積みがほとんどない」というケースもあるため、単純な平均値だけでは自分の会社の実態を判断しづらいのが現状です。
確定拠出年金(DC)化と退職金減少の傾向
最近の動きとして注目されるのが、従来の退職金制度から確定拠出年金(DC)に移行する企業が増えていることです。
DCでは、企業が拠出する掛金を従業員が自己運用し、将来的に運用成果に応じて受給額が変わる仕組みになっています。
この仕組みは企業側から見ると負担が読みやすいメリットがある一方、従業員側にとっては「運用リスクが自己責任になる」というデメリットがあります。
結果として、運用次第では従来型の退職金よりも受給額が少なくなる可能性がありますし、企業によっては拠出額自体が少なく、実質的に退職金の目減りに近い形となってしまう場合もあります。
こうした状況から、過去と比べて「退職金は減っているのか?」と問われれば、
というのが実態でしょう。
特に中小企業はそもそも金額設定が低いうえに、不況時の企業業績悪化でさらなる制度改定が行われるリスクも存在します。
iDeCoは退職金がない/少ないサラリーマンや個人事業主に最適!
というわけで、企業にも依ることは確かなものの、退職金に関して社会全体の流れとしては、
- 退職金は総じて減少傾向にある
- 企業・業種によってはなかったり、額に期待ができない
- 企業型DCも運用リスク自体は自分にある
と言えます。
やはり、iDeCoをやっておき、退職所得や老後の備えとして準備しておくことが望ましいです。
退職金に恵まれないかもしれない/十分な額ではないサラリーマンはもちろん、厚生年金に加入できない個人事業主もiDeCoは検討した方が良いですよ。
iDeCoの基本メリット
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、「掛金が全額所得控除」「運用益は非課税」「受取時にも税制優遇」という三段構えの優遇があるため、老後資金づくりに非常に有利な制度です。
特に、退職金がもともとない企業や、あっても少額しかもらえない方にとっては、iDeCoによる積み立てが実質的に「第二の退職金」になります。
たとえば会社員の場合、iDeCoの掛金は拠出するたびにその全額が所得控除に算入できるため、税率が高いほど節税メリットが大きいです。
個人事業主であれば、国民年金しかない状態をカバーする強力な私的年金の仕組みとして役立つでしょう。
退職金が少ない/ない人だからこそ有利な理由
従来、iDeCoの受取時には「退職所得控除(または公的年金等控除)」を最大限に活かすため、退職金との受取タイミングを調整する手法が有名でした。
しかし、そもそも退職金制度がなかったり、支給額が少ない場合、受取時の控除枠をほぼiDeCoだけで占有できるため、課税されるリスクが低くなります。
一方、大企業や高額の退職金を想定している人は「退職所得控除をどれだけ使い切るか」「iDeCoとの合算で課税が増えないようにするか」など、タイミング調整が難しくなるケースがあります。
しかし、退職金が少ない人はそもそも「退職所得控除」の大部分を余してしまう傾向があり、そのぶんiDeCoの一時金受取でより多くの控除メリットを受けられるわけです。
公的年金等控除を活かす「年金受取」もあり
また、iDeCoの受取り方法は、一時金だけではありません。
分割(年金方式)を選択すれば、公的年金等控除の枠内に収まるように受取り額を調整することで、さらに税負担を少なく抑えられる場合があります。
特に退職金が期待できない方にとっては、iDeCoを年金形式で受け取ることで、毎月あるいは年数回の安定した現金収入を得られる点がメリットです。
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将来設計のために早めの準備を
今回は以上です。
退職金制度に依存できない場合こそ、早い段階から自助努力による老後資金づくりが不可欠です。
iDeCoならば拠出時点で節税になるうえ、積立が長期にわたるほど運用益が非課税で積み上がりやすくなるメリットがあります。
自営業やフリーランスの方はもちろん、サラリーマンでも
と思う人は、なるべく早期にiDeCoの導入を検討してみることをおすすめします。
今後、制度改正があったとしても、長期的に見ればiDeCoの税制優遇効果は大きな武器です。
「iDeCoの口座をどこで開設するか(金融機関など)」の比較や、受取時シミュレーションを行いながら、自分の働き方・ライフプランに合った形で活用していきましょう!