共働き夫婦にとって、それぞれ借り入れができるペアローンは魅力が大きい住宅ローンでしょう。
その一方で、離婚した時に問題が発生するリスクがあることをご存知でしょうか。
マイホームを購入する際に離婚のことを考える方はそう多くないかもしれません。しかし、リスクがあること自体は知っておくべきでしょう。
そこで本記事では、ペアローンにおける離婚時の問題点を紹介します。また、リスクを知ったうえでペアローンを活用したいと考える方向けに、離婚時の対処法についても見ていきます。
参考)離婚すると、住宅ローンはどうなる?│一般社団法人全日本任意売却支援協会へ
ペアローンとは?
ペアローンとは、住宅ローンの一種です。
ひとつのマイホームに対して、夫婦(または親子)がそれぞれ契約者として借り入れることで、2本の住宅ローンで家を購入します。
各契約者が自身の収入に応じて借り入れできるので、単独でローンを組むよりも多くの金額を借入可能です。
ペアローンの取り扱いがない金融機関もあります。また、ペアローンを組む際は妻が夫を、夫が妻を連帯保証人になるのが一般的です。
ここでは夫婦で利用する前提でペアローンについてお伝えします。
ペアローンのメリット
ペアローンには次のようなメリットがあります。
借入額を多くできる
単独では住宅ローンの審査が厳しいときにペアローンを活用することで、希望する額を借りやすくなります。
返済の見込みなしに借入額を増やすのではなく、世帯収入に見合った金額を借りられる点が大きなメリットです。
各自団信に加入できる
夫婦でそれぞれ団信に加入することができるので、万が一の時に配偶者のローン返済義務はなくなります。ただしご自身の返済義務は残るので注意です。
また、同じ金融機関で住宅ローンを組むからといって、内容も同様とする必要はありません。
それぞれの住宅ローンの借入期間や金利タイプを別々に設定可能です。
それぞれが住宅ローン控除を受けられる
それぞれの借入額に応じて住宅ローン控除を適用可能です。
住宅ローン控除とは、年末の住宅ローン残高の0.7%が所得税(一部住民税)から最大13年間控除される優遇制度です(※)。
例えばそれぞれの住宅ローン控除の残高が4,000万円であれば、最高で各自28万円(4,000万円×0.7%)の控除を受けられることになります。
※住宅の種類に応じた限度額があります
ペアローン利用時の注意点
多くのメリットがある一方で、贈与税や諸経費に注意が必要です。
贈与税の課税対象になることがある
登記上の持ち分とペアローンによる返済割合が異なる場合、贈与税が発生する可能性があります。
例えば、全額ペアローンで借り入れた場合の借入割合(返済割合)が夫50%、妻50%であれば、共有持分も同様にすることが望ましいです。
返済割合と比較して持ち分が多いと、超過分が贈与とみなされる可能性があるからです。
諸経費も2本分かかる
事務手数料や契約書に貼り付ける印紙代など、それぞれの住宅ローンに対して諸経費が発生します。
だし「借入額」を基準にした諸経費については、借入額を夫婦で分担しているので単純に2倍かかるわけではありません。
借りすぎに注意が必要
夫婦それぞれが目いっぱい借り入れてしまうと、どちらかの収入が減った場合や、病気で働けなくなるような場合に家計が深刻な状況に陥りかねません。
互いに少し余裕を持った借入額を心掛けましょう。
ペアローンを組んで離婚した場合の問題点
ペアローンを組んで離婚した場合に問題が生じる可能性があるのは、ペアローンに次のような特徴があるからです。
離婚してもそれぞれのローンが残る
離婚とともに住宅ローンを返済すれば、基本的にはペアローンの問題は生じません。
しかし、離婚時に一括返済出来る方はそういないでしょう。
離婚後、片方の住宅ローンに返済が滞るともう片方にも影響が生じる
離婚してどちらかが家を出る場合、出て行ったとしても自身の住宅ローンは返済義務が継続します。
例えば妻が家に残り夫が家を出るといったケースで、夫が返済を停止して債務不履行の状態に陥ると、妻が返済義務を迫られたり、住む家を失ったりする可能性があります。
ペアローンは互いが連帯保証人となる契約です。配偶者が返済を停止した場合、自分名義の住宅ローンだけでなく配偶者の返済の義務が発生します。
財産分与が発生する
離婚時は「財産分与」が発生します。
財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に協力して築いた財産を分け合うことで、預貯金や家財・マイカー、マイホームはもちろんのこと、負債である住宅ローンも対象です。
夫婦で話し合って離婚後の取り扱いを決定しなければなりません。
離婚時はマイホーム以外に慰謝料、子どもがいる場合は子供の親権や慰謝料などさまざまなことを話し合うことになるでしょう。
大きな「お金の話」のなかのひとつなので、ペアローン以外の要素も含めて合意点を探らなければならない点も注意が必要といえます。
通常の住宅ローンを組んでいる際も同じ問題が生じる可能性がありますが、ひとつのマイホームに対してそれぞれのローンが残っていることから、問題が複雑化しがちです。
ペアローンを組んで離婚した場合の対処法
どんな対処法があるかと、それぞれの方法にどんな注意点があるかを紹介します。
債務引き受け(1本化)
債務者の代わりに別の第三者が債務を引き受けるのが債務引き受けです。
例えば、妻が離婚後も家に住み続けるため、夫の「持分」と「住宅ローン」を妻が引き受けるといったケースです。
ただし、免責的債務引受をするには住宅ローンの債権者(借入先金融機関)の許可が必要であるため、金融機関が許可しないとこの方法は実行できません。
金融機関に妻に十分な収入や資力があり、単独でも十分に返済が可能だと評価してもらわなければなりません。
借り換え(1本化)
別の金融機関から新たに住宅ローンを借り入れ、今組んでいるペアローンを完済する方法です。
例えば、離婚後も家に住み続ける妻が、新たな借り入れで「自身(妻)」と「夫」双方のペアローンを完済します。
以後は、新たに借りたローンの返済を自分(妻)自身でしていきます。
ただし、妻がペアローン全額を返済できるだけの金額を借り換えできるとは限りません。借り換え先の審査条件や返済能力を見極めたうえで、選択しましょう。
売却する
売却し、売却益でローンを返済する方法です。夫婦それぞれ別の場所でやり直したい場合は、特に有効です。
ただし、売却までに時間がかかることがあります。またオーバーローン(※1)の場合は、そのままでは金融機関の設定した抵当権を抹消できません。
抵当権が設定されたままでは第三者への売却は難しいため、自己資金を投入して抵当権を外す必要が生じます。
あらかじめ、マイホームの売却価格と住宅ローン残高を把握したうえで売却の妥当性を判断します。なお、アンダーローン(※2)の場合は売却益を受取、分け合うことが可能です。
※1 オーバーローン 売却益が住宅ローン返済残高を下回ってしまうこと
※2 アンダーローン 家の売却価格がローン残高を上回ること
住み続ける
住宅ローンの支払いを続けながら、妻か夫のどちらかが家に住み続ける選択肢もあります。
ただし、ペアローンの1本化(債務引き受け/借り換え)ができなければ、互いにローンを支払い続けることになります。
前述のように、妻が家に残りそれぞれが住宅ローン返済を続ける場合、夫が滞納した場合、妻がに支払いを求められることがあります。
妻が返済しきれなければ家を失う可能性が高いです。
家を出た後も支払いを続ける意思をしっかりと確認することや、定期的に連絡を取り返済されているのか把握しておくことなどが求められるでしょう。
離婚以外のペアローンのリスク
主にペアローンを組んで離婚した場合の問題点や対処法をみてきました。
続いて、離婚しない場合に生じるリスクについても紹介します。
ライフイベントの変更→ライフイベントの影響
例えば妻の育休によって収入が減るリスクの場合、介護の発生で夫婦のどちらかが仕事を辞めるリスクなどが該当します。
どちらか片方のみがローンを組んでいるときよりも、世帯年収が減った時の住宅ローンへの影響が大きいです。
死別したときローン残高が大きくなりがち→万が一の際の返済リスクが大きい
ペアローンの場合、例えば夫が死去した際、団信によって夫のローンは全額完済されますが妻のローンは完済されません(一般的な団信の場合)。
残された配偶者の住宅ローンはそのまま残るため、家計が圧迫されがちです。
ペアローンは結局お得なの?
ペアローンの概要を見たうえで、離婚時の問題点を紹介しました。
ペアローンは避けた方がいいと感じた方もいるかもしれません。
しかし、離婚はあくまで可能性の話です。
単にリスクを怖がるのではなく、リスクを理解したうえで、夫婦で話し合うことをおすすめします。夫婦でリスクへの対処法を考えることは、コミュニケーションのあり方として健全です。
正解は夫婦ごとに異なるからこそ、積極的に向き合ってみてはいかがでしょうか。
まとめ|離婚リスクも知ったうえでペアローンの活用を考えよう
ペアローンは夫婦2人でローンを組むことで、借入希望額を達成しやすくなったり、それぞれ別のタイプのローンを組んだりできるメリットがあります。
しかし、借入額が想定以上に大きくなってしまうかもしれません。
また、夫婦そろって返済することが前提のため、離婚時に問題点が生じる可能性があります。
マイホーム購入時に離婚のことを考える方は少ないとは思いますが、何事も「万が一」の発生する可能性はあります。
夫婦でメリットとリスクを話し合ったうえで、納得できる選択をしていきましょう。