iDeCoの拠出限度額が変更に!2026年4月と2027年1月に何がどう変わる?

2025年度の税制改正大綱により、iDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型DCの拠出限度額が大幅に引き上げられることが決定しました。
加えて、iDeCoに加入できる年齢の上限も引き上げられる予定です。


具体的には、2026年4月から企業型DCにおける従業員の掛金拠出ルールが緩和され、2027年1月からiDeCoの月額拠出上限が拡大されます。
「老後資金づくりをもっと充実させたい」と考える人にとって、大きな追い風となる制度改正です。

本記事では、2026年・2027年の年金制度改正によって「何がどう変わるのか」「誰が対象になるのか」をわかりやすく解説し、さらに拠出額拡大による資産形成効果のシミュレーションもお見せします。
【2026年4月】企業型DCの従業員拠出制限が撤廃される

まず2026年4月に予定されているのは、企業型DC(企業型確定拠出年金)における従業員の掛金拠出制限の撤廃です。
これまでは「マッチング拠出」による上限規制あり
企業型DCでは、企業が拠出する掛金に加えて、従業員本人が給与から追加拠出できる「マッチング拠出」という制度があります。
しかし現行制度では「従業員の拠出額は会社拠出額を超えない範囲まで」という制限がありました。

つまり「会社が出す掛金と同額」までしか自分で上乗せ拠出できません。
2026年4月以降、従業員は拠出限度額いっぱいまで掛金を出せる
2026年4月以降、このマッチング拠出の上限規制が撤廃されます。
会社の掛金額に関わらず、従業員は定められた拠出限度額いっぱいまで自分で掛金を出せるようになる予定です。
たとえば、これまでは会社の掛金が月1万円なら従業員も月1万円までしか拠出できませんでした。
しかし、改正後は会社掛金1万円でも本人が月5万円以上を拠出することも可能になります(後述する新たな限度額の範囲内)。

この変更により、企業型DCを導入している会社員はより柔軟に老後資金を積み増しできるようになります。
企業の制度にとらわれず積み立てられるように
従業員拠出の制限撤廃は、企業年金制度への加入機会がなかった人や、会社からの掛金が少なく十分に積み立てられなかった人にも恩恵があります。
企業型DCのマッチング拠出は任意制度のため導入していない企業もありますが、今回の規制緩和を機に導入を検討する企業も増えるかもしれません。

未加入者や拠出額が頭打ちだった層の参加拡大が期待でき、結果的により多くの働く人が私的年金で老後資金を準備しやすくなるでしょう。
【2027年1月】iDeCoの拠出限度額が引き上げ&加入年齢を70歳未満に拡大
続いて2027年1月から実施されるのが、iDeCo(個人型DC)の制度拡充です。
主なポイントは「掛金拠出限度額の大幅アップ」と「加入可能年齢の引き上げ」となっています。
それぞれ詳しく見てみましょう。
iDeCo掛金の上限額が大幅アップ

これまでiDeCoの月額掛金には、公的年金の種別や企業年金の有無に応じて職業ごとに異なる上限が定められていました。
現行制度では、会社員の場合「勤務先に企業年金がない人は月2万3,000円まで」「企業年金(企業型DCや確定給付年金など)がある人は月2万円まで」というように差があり、公務員も月2万円が上限です。
一方、自営業者(第1号被保険者)の方はiDeCoと国民年金基金の合算で月6万8,000円が拠出上限となっていました。

2027年1月から、これらiDeCoの掛金上限が一律に引き上げられます。
具体的には以下のような改定が予定されています(2025年現在との比較)。
加入者区分・対象者 | 現行の掛金上限額 | 改正後の掛金上限額(2027年~) |
---|---|---|
会社員(企業年金なし) | 月額23,000円(年27万6,000円) | 月額62,000円(年74万4,000円) |
会社員(企業年金あり) ※公務員等含む | 月額20,000円(年24万円) ※企業年金と合算で月55,000円 | 月額62,000円(年74万4,000円) ※企業年金と合算で月62,000円 |
自営業者・フリーランス等 (第1号被保険者) | 月額68,000円(年81万6,000円) ※国民年金基金と合算 | 月額75,000円(年90万円) ※国民年金基金と合算 |
専業主婦(主夫)など (第3号被保険者) | 月額23,000円(年27万6,000円) | 月額23,000円(変更なし) |
ご覧のとおり、特に会社員や公務員のiDeCo拠出枠が大幅に拡大します。
これにより、企業年金に加入している人もいない人も、同じ上限額までiDeCoで積み立てられるようになるわけです。
一方、自営業者等(国民年金第1号被保険者)は上限が月7万円台にアップ(+7,000円)と小幅ですが増額され、専業主婦(主夫)など第3号被保険者の方の上限(月2万3,000円)は変更ありません。
企業型DCとの合計枠も拡大
企業型DCとの合計枠も拡大されます。
現行では企業年金(企業型DCや厚生年金基金など)に加入している会社員は「iDeCo単体は月2万円まで、企業年金等との合計で月5万5,000円まで」という制限がありました。
しかし改正後は「iDeCo単体の上限」が撤廃され、企業年金との合算で月6万2,000円まで拠出できるようになります。
企業型DCに加入中の人は、6.2万円から企業型DCの事業主掛金分を差し引いた額がiDeCoの掛金上限となります。

例えば企業型DCで会社が月3万円拠出している場合、残り3万2,000円をiDeCoで積み立てられる計算です。
確定給付企業年金(DB)や厚生年金基金に加入しているケースでも考え方は同様で、それらの掛金相当額との合計で月6.2万円までが上限となります。
いずれにせよ、ほとんどの現役世代で今までより多くの金額をiDeCoに拠出できるようになるのは間違いありません。
iDeCoの加入可能年齢が70歳未満に

もう一つの重要な改正点がiDeCoに加入できる年齢上限の引き上げです。
現状では、
- 会社員・公務員等の第2号被保険者・・・65歳未満
- 自営業者や第3号被保険者(専業主婦など)・・・60歳未満
という年齢制限があり、それを超えると新規加入や掛金拠出ができませんでした。
しかし2027年以降、一定の条件を満たす場合に70歳未満までiDeCoで積み立て可能となります。
具体的には、「過去にiDeCoに加入していたが一度脱退し、再加入できなかった人」や「他の私的年金(企業年金など)からiDeCoへ資産を移換できる人」であれば、69歳まで掛金拠出を継続できるようになります。
条件に該当すれば、60代後半まで私的年金での積立を継続し、老後資金をさらに上乗せできるチャンスが広がるわけです。
近年は定年延長や再雇用などで65歳以降も働く高齢者が増えています。
企業型DCは既に70歳まで加入可能な制度設計であるのに対し、iDeCoは不利でしたが、今後は働きながら老後資産を積み立てられる期間を最大5年延長できるようになります。
ただし、一度でも給付を開始したら掛け金拠出は不可
ただし注意点として、一度でもiDeCo資産の受け取り(給付)を開始すると、その後は掛金拠出ができなくなるルールがあります。
年金給付と積立を同時並行することはできません。

例えば60歳でiDeCo資産を一時金で受け取った場合、その後は再加入による拠出は不可となる点は覚えておきましょう。
拠出額拡大で老後資産はどれくらい増やせる?運用シミュレーション

では、これだけ拠出限度額が拡充されると老後資金の形成にどれほどプラスになるのでしょうか。
過去の運用実績をもとにシミュレーションしてみましょう。

ケース1:会社員(企業年金なし、上限拠出30年)
月拠出 | 期間 | 年率5% 最終残高 (元本/利益) | 年率7% 最終残高 (元本/利益) |
---|---|---|---|
23,000円 (現行上限) | 30年 | 19,141,949円 (8,280,000円 / 10,861,949円) | 28,059,333円 (8,280,000円 / 19,779,333円) |
62,000円 (改正後上限) | 51,600,035円 (22,320,000円 / 29,280,035円) | 75,638,202円 (22,320,000円 / 53,318,202円) |
前提:毎月末拠出・年率は年利を月割で複利計算・手数料等は考慮外・端数は四捨五入。
※表中の残高は概算例です。上表は毎月末拠出・月次複利の正味試算のため、若干の差が出ます。
現行制度では会社員で企業年金のない方のiDeCo拠出上限は月23,000円です。
仮にこの上限いっぱいを30年間(例えば35歳から65歳まで)拠出し、年5%で運用できたとすると、60歳時点での積立残高は約1,875万円になります。
そのうち元本の総額は約828万円(23,000円×12ヶ月×30年)ですから、運用益は約1,047万円を得られた計算です。
一方、2027年以降は同じ会社員が月62,000円までiDeCoで積み立て可能になります。
月6.2万円を同条件(30年・年5%運用)で拠出できれば、60歳時点の残高は約5,055万円に達します。
元本総額は約2,232万円(62,000円×12ヶ月×30年)なので、運用益は約2,823万円にもなります。
現行上限でのシミュレーション結果と比べると、最終的な資産額は約2.7倍にも増え、運用益も約1,800万円多く得られる試算です。

もちろん実際の利回り次第ではありますが、拠出額の拡大は老後資産形成に絶大な威力を発揮すると言えるでしょう。
ケース2:公務員(上限拠出15年)
月拠出 | 期間 | 年率5% 最終残高 (元本/利益) | 年率7% 最終残高 (元本/利益) |
---|---|---|---|
20,000円 (現行上限) | 15年 | 5,345,779円 (3,600,000円 / 1,745,779円) | 6,339,246円 (3,600,000円 / 2,739,246円) |
54,000円 (改正後上限) | 14,433,603円 (9,720,000円 / 4,713,603円) | 17,115,964円 (9,720,000円 / 7,395,964円) |
前提:毎月末拠出・年率は年利を月割で複利計算・手数料等は考慮外・端数は四捨五入。
※表中の残高は概算例です。上表は毎月末拠出・月次複利の正味試算のため、若干の差が出ます。
現行の公務員iDeCo上限は月20,000円ですが、2027年以降は月54,000円程度まで拠出可能となる見込みです。
例えば現在50歳の公務員が、定年の65歳まであと15年間iDeCoを続けるケースを考えてみます。
改正前は月2万円×15年を年5%で運用すると65歳時点で約522万円(元本360万円+益162万円)の資産形成でした。
改正後は月5.4万円×15年なら約1,409万円(元本972万円+益437万円)となり、資産額で約900万円の差がつく計算です。
中高年からの加入期間が短い場合でも、掛金上限が上がればこれだけ結果が変わり得るためiDeCoの拠出枠拡大によって長期運用による複利効果を最大限に活かせるようになります。

「上限が低くて十分積み立てられない」というこれまでの不満点が解消され、老後に向けた自助努力の余地がぐんと広がるでしょう。
ケース3:自営業者(第1号被保険者)
月拠出 | 期間 | 年率5% 最終残高 (元本/利益) | 年率7% 最終残高 (元本/利益) |
---|---|---|---|
68,000円 (現行上限) | 30年 | 56,593,587円 (24,480,000円 / 32,113,587円) | 82,958,028円 (24,480,000円 / 58,478,028円) |
75,000円 (改正後上限) | 62,419,398円 (27,000,000円 / 35,419,398円) | 91,497,825円 (27,000,000円 / 64,497,825円) |
前提:毎月末拠出・年率は年利を月割で複利計算・手数料等は考慮外・端数は四捨五入。
※表中の残高は概算例です。上表は毎月末拠出・月次複利の正味試算のため、若干の差が出ます。
自営業者・フリーランス(国民年金第1号被保険者)は、iDeCoと国民年金基金の合計上限が「月6.8万円 → 月7.5万円」へ拡大します(実施目標:2027年1月以降の控除分)。
拠出枠の拡充により、非課税で運用できる元本を年間で84,000円上乗せ可能になります。
節税効果(事業所得1,000万円モデル)
iDeCoの掛金は「小規模企業共済等掛金控除」として全額が所得控除になり、所得税+住民税が軽減されます。
第二号被保険者にも適用されますが、特に確定申告を行う個人事業主は節税意識が高くiDeCoのメリットと感じる方が多いと思います。
試算では、課税所得が900万〜1,800万円帯の33%(復興特別所得税込みの実効33.693%)に属すると仮定し、住民税10%と合わせた実効約43.693%で概算します。
- 現行上限(年81.6万円)の年間節税額:約356,535円
- 改正後上限(年90万円)の年間節税額:約393,237円
- 30年累計:旧約1,070万円 → 新約1,180万円(差約110万円)
※住民税率は標準10%で概算。各種控除・居住地・将来の税制で変動します。

このように、上記の例ではiDeCoを30年間運用することで1千万円以上もの金額が節税できたことになります。
終わりに|拠出枠拡大を活用して「自分年金」をしっかり準備しよう
今回の企業型DC・iDeCo制度の改正は、少子高齢化による公的年金の先行き不安に対応し、民間の年金制度を活用した老後資産形成を後押しする目的があります。
実際、厚生労働省の試算では経済成長がゼロの場合、将来の年金給付水準が30年後に3割程度低下する可能性も指摘されています。

こうした課題に対し、私的年金である企業型DCやiDeCoの拡充によって老後の「自分年金」を充実させ、将来の所得保障を強化しようというのが改正の背景と言えるでしょう。
拠出限度額の引き上げや加入可能年齢の拡大によって、若い世代からシニア世代まで誰もがこれまで以上に長く・多く老後資金を積み立てられる環境が整います。
NISA(少額投資非課税制度)などと並んで、iDeCoは「拠出・運用・受取」の全局面で税制優遇を受けられる強力な資産形成手段です。

今回の制度改正を機に、自分の状況で最大限フル活用してみる価値は大いにあるでしょう。

公的年金だけに頼るのではなく、ぜひ拡充されたiDeCoや企業年金制度を上手に活用して、豊かな老後に向けた「自分年金」を育てていきましょう!