マイホーム購入においては、多くの方が住宅ローンを利用します。
そのため、住宅購入を検討しているほとんどの方にとって住宅ローン審査の「甘さ」は気になる要素です。実際に審査が甘い住宅ローンはあるのでしょうか?
結論から伝えますと、住宅ローン審査の詳細は公開されていないため、金融機関ごとの「甘さ(厳しさ)」を一概に判断することは難しいです。
しかし、審査基準を知ることで通過する確率を上げることは可能です。
本稿では、住宅ローン審査の基準や申し込み前に確認しておきたいコツを紹介します。
また、審査に通った後のリスクを減らすポイントも紹介していきます。
住宅は大きい買い物なので、不安も少なくないことでしょう。審査後のことも踏まえて住宅ローンを考えることで、住宅購入の安心感を高めていきましょう。
審査が甘い住宅ローンはあるのか?通過するための基準
審査落ちへの不安が大きいと、つい審査の甘い金融機関を探してしまいそうになります。
しかし、まっとうな審査を行う金融機関において、100%通過できると断言できる住宅ローンはありません。
そのため「審査が甘い」住宅ローンを探すよりも、審査基準を満たしていくことの方が大切でしょう。
住宅ローン審査において重要とされる5つの基準を紹介します。
完済までの年齢
完済までの年齢とは住宅ローンの返済を終えるときの年齢のことです。
この完済時年齢は、ほとんどの金融機関では75~80歳未満とされています。
例えば40歳で35年のローンを組んだ場合は、75歳が完済時年齢です。完済時年齢を「80歳」としている金融機関なら余裕がある一方で、「75歳」としている金融機関ならギリギリとなり、購入準備中に誕生日を迎えると基準を上回ってしまいます。
40歳以降で住宅ローンを組む場合は、漫然と35年ローンを組むと、審査が厳しくなる可能性があるので、完済時年齢を意識して住宅ローンの年数を決定するといいでしょう。
安定した職業・年収
長期間にわたる返済において、安定した職業と年収を保持していることは将来の不確実性への備えとなります。
一般的には、リストラや倒産リスクの可能性が低い公務員や、業績の安定した大手企業の方が有利です。
しかし、そのような属性の方ばかりではありません。
上記以外の企業にお勤めの場合は、勤続している年数で安定性を積み上げることが可能です。勤続年数も住宅ローン審査においては重要な要素であるため、コツコツ働き続けること自体が返済への信用を高めることでしょう。
つまり、「安定した職業・年収」を求めるあまり年収アップやより信用力の高い企業への転職活動を行うのは、多くの場合逆効果です。
物件の担保評価
住宅ローンを借りる際には、金融機関が物件に抵当権を設定します。
これによって、返済ができなくなってしまったときに、金融機関は抵当権を実行(物件売却)して売却代金を手に入れることができます。
抵当権の設定は、金融機関のリスクヘッジなのです。しかし物件の担保評価が低ければ、売却代金が低くなることが予想されます。
理論上、住宅ローン残高に相当する金額で売却できなければ金融機関は損をしてしまいます。そのため物件の担保評価が重視されるのです。
担保評価は立地や物件の状態により総合的に算定されますが、物件の築年数が多いと評価が低くなりがちです。例えば中古物件を購入する場合は、借入額を少なくすることを検討してみるといいかもしれません。
返済負担率
返済負担率(返済比率)とは「年収に占める年間返済額の割合」のことで、「返済比率(返済負担率)(%)=年間返済額÷年収×100」で算出します。
返済負担率が高いほど家計の負担が大きくなるため、30~35%以下に抑えないと住宅ローン審査が厳しくなるといわれています。
この際に注意しておきたいのは次の2点です。
1.住宅ローン以外の借り入れがある場合はそれも含めて算出される
2.住宅ローン年間返済額を算出する際には市場金利とは異なる審査金利が用いられる
「1」は家計全体のリスクを判断するために必要なことですし、「2」は返済中に金利が上昇するリスクも含めて審査されるためです。
多くの方は「うちの年収ならこのくらいは返済できる」との見通しをもって住宅ローン審査に臨むことでしょう。
しかし上述の注意点を踏まえると、金融機関はより厳しい目で「返済できる額」を見極めているようです。住宅ローン審査に申し込む前に、少し控えめに借りることを意識するといいでしょう。
信用情報に傷がついていないか
「信用情報」とは所定の信用情報機関が保有する情報で、クレジットカードや各種ローン等の契約内容や支払い状況等の情報を登録したものです。
例えばクレジットカードの申し込み履歴や、スマートフォンを分割払いで購入した事実などが該当します。
さらに、支払いが延滞した場合もその情報が一定期間記録されます。
この状態を「信用情報に傷がつく」といいます。原則として信用情報に傷がついた状態で住宅ローン審査に通るのは難しいです。
客観的な情報が記録されるため、「口座残高が不足してしまっただけで、悪気はなかった」「クレジットカード会社から連絡が来たらすぐ払った」などの個人的な事情は忖度されません。
ご自身では忘れていても、うっかり滞納してしまっている可能性もあります。不安な方は、一度ご自身の情報を照会してみてください。
審査に通過する確率を上げるコツ
ここまで審査に通過するための基準を紹介してきましたが、自分は通過できるか不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
そこで、通過率を上げるコツや申し込み前の確認ポイントを紹介します。
審査に不安がない方も、住宅ローン審査の安定性を高める参考になさってください。
借入がある場合は、完済してから申し込む
前述のとおり、審査基準のひとつである返済負担率には住宅ローン以外の借り入れも含まれます。
そのためマイカーローンや家電ローンなどがある方は、完済することも検討します。なお、学生時代に借りた奨学金も住宅ローン審査においては「借入額」に含まれることは知っておきましょう。
ただし、無理に返済して必要な貯蓄がなくなってしまうことは避けなければなりません。
複数の借り入れがある場合は、無理が出ないように総額の小さいものを完済したり、高金利のものを優先して返済したり、全体のバランスをみながら借入額を減らしていきましょう。
収入に対して借入希望額が大きすぎないか確認する
収入の中から返済をしていくことを考えると、収入と借入額のバランスは重要です。
金融機関ごとに判断は異なりますが、無理なく返済ができるのは「額面年収の6~7倍程度」までといわれています。仮に額面年収が500万円であれば、3,000万円(500万円×6)が目安です。
なお額面金額とは、税金や社会保険料が引かれる前の給与金額のことです。ただし、近年は所得税や社会保険料が増加傾向にあります。
借入額が年収の6~7倍までなら問題ないと安心せず、手取り金額から現実的な負担感を確認するとより安心です。
頭金は多くして申し込む
借りられるだけ借りることが住宅ローンの正解ではありません。
借入額が大きいほど返済のリスクが高くなりますし、物件価格の10~20%程度の頭金があったほうが良いとされます。
本来であれば、将来の住宅購入を見据えて頭金を貯めておくのがベストだといえますが、それにはある程度の準備期間が必要です。ひとまず資産を見直して、頭金に回す額を増やせるか検討してみましょう。
現状で手持ち資産がない方は、住宅購入にかかる諸経費も住宅ローンで賄おうと考えているかもしれません。
確かに、住宅ローン手数料や登記手数料、火災・地震保険料などの諸経費を住宅ローン借入額に含むことができる住宅ローンも存在します。
しかし、借入額が多くなればその分審査が厳しくなると見込まれるため、少なくとも諸経費は現金で支払うことをおすすめします。
審査前にチェックすべきポイント
ここでは、審査基準とは別に住宅ローン審査時のチェックポイントや、考慮しておいたほうがよい点を3つ紹介します。
提出書類に不備がないか
審査をスムーズにするポイントです。
住宅ローン審査では、ご自身の収入や物件に関するさまざまな書類を提出しなければなりません。代表的なものは会社員の方の源泉徴収票や物件の売買契約書や図面などです。
提出した書類を詳しく審査するため、書類不備があると審査が遅れてしまいます。
場合によっては、書類の不備が審査そのものに影響を与える可能性も考えられます。
完済までの支払いプランは決めているか
住宅ローン審査に申し込む際は、審査に通ることが目的になってしまいがちです。
しかし審査に通ったあとに返済がまっていることを考えると、この段階でどのように完済するのかプランを立てておくことが求められます。
例えば、40歳で35年の住宅ローンを組むのであれば、完済前に定年退職してしまうことが見込まれます。
退職金を活用して住宅ローンを減らす、もしくは完済するなどの選択肢について検討し、現実的な案を模索します。
また、60代70代になれば、病気になる可能性も考慮すべきでしょう。事前に支払いプランを検討しておけば、リスクに備えて団体信用生命保険(※)に加入することや、民間の医療保険を充実させるなどの対策をとることが可能です。
※住宅ローンを返済中に死亡や高度障害など所定の事項が発生した場合に、住宅ローンの借入残高に相当する金額の保険金額が支払われる保険。死亡・高度障害のみならず、医療保障が付帯したタイプもある
将来のリスクも考慮して借入希望額を決める
現在の年収から「支払える額(=借入可能)」を算出するのも間違いではありませんが、将来のリスクも考慮すると、より家計のリスクを軽減できます。
住宅ローン審査に通ったとしても、返済リスクを負うのはご自身の家計ですので、ご自身の将来の生活のために考慮すべき事項でしょう。
ここでいうリスクは変化のことで、現在と状況が変化しても、都度対応していけるように備えることと捉えてください。具体的な変動要因は次章で紹介します。
また、審査に落ちた際の対処方法についてもまとめています。こちらも参照ください。
審査に通過したあとに考えられるリスク
住宅ローン審査に通り、住宅の購入に進んだ場合、次は住宅ローン返済が始まります。
住宅ローン返済において代表的な家計リスクを紹介します。
収入状況が変化する可能性がある
会社員の方は、企業業績によって収入が減る可能性があります。
またファミリー世帯の場合、子どもの誕生により働き方をセーブすることも考えられます。
業績向上や昇進によって収入が増える可能性もある一方で、減るリスクもあることを考慮しておきましょう。
それらの外部要因がなくとも、ライフワークバランスを意識することで仕事の比重を減らすことや、自己実現のために転職するといった内部要因による変化が考えられます。
住宅ローン返済が重荷になってご自身の希望する生き方が狭まってしまえば、住宅購入の意義も薄まってしまうかもしれません。
金利が変動する可能性がある
変動金利は固定金利よりも金利水準は低いですが、金利が上昇するリスクがあります。
想定以上に金利が上がることで、返済が苦しくなってしまう可能性があります。
変動金利は人気のある金利ではありますが、返済額が増えるリスクも知ったうえで選択してください。
固定金利 | 変動金利 |
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借入時の金利が継続するので住宅ローン返済額が変わらない ただし、金利水準は変動金利よりも高め | 定期的に金利が見直されるので住宅ローン返済額の変動がある ただし、金利水準は固定金利よりも低め |
諸経費や税金など支払うお金が増える→メンテナンス費や税金などの維持費がかかる
住宅購入後の維持費としてまず挙げられるのは、毎年発生する固定資産税(土地によっては都市計画税も)です。
これは土地と建物にかかる税金ですので、確実に支払わなければなりません。
また、メンテナンス費用にも注意が必要です。マンションの場合は毎月管理費と修繕積立金がかかります。
一戸建ての場合は例えば外壁塗装・シロアリ対策など、将来必要な修繕費用を準備しておかなければなりません。
それまで賃貸で暮らしていた方の場合、これらの持ち家にかかる費用が新たに発生することを把握しておきます。
見直すべきポイントと対策
審査に通過した後にも複数のリスクが生じるため、住宅ローンに怖さを感じてしまうかもしれません。
しかし怖さを知ることで、対策へとつなげることが可能です。
無理なく完済できるか不安→シミュレーションを利用する
リスクに耐えられるか不安なときは、収入と支出のシミュレーションを作成します。
未来の家計を可視化することでリスクの度合いを確認しましょう。
年単位で、想定される収入と住宅ローン返済・修繕費・生活費等の支出を書き出していくと、住宅ローン返済が問題なく行えるか見えてきます。
ご自身でエクセルシートを作成する方法もありますし、無料のシミュレーションもインターネット上で多く提供されています。
収入 | 支出 |
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想定される収入 給料や退職金が減るパターンも作成すると良い | 住宅ローン返済・修繕費・生活費等 教育費やマイカー買い替えなどの大きい支出は全て盛り込むと、 リスクがより正確に把握できる |
1人では借り入れできない可能性がある→「収入合算」「ペアローン」を使う
女性の社会進出が進んでいるとはいえ、まだまだ女性は出産や子育ての影響を受けやすいのが現状です。
そのため、共働きでも夫のみの収入で住宅ローンを組むことを考えている方も多いでしょう。
しかし、夫だけでは審査が厳しくなってしまうかもしれません。
その場合は、世帯全体で借り入れを考えていきましょう。
夫婦で借り入れを行うペアローンであれば、借入可能額を引き上げることができます。
また、住宅ローン契約者(世帯主)にもう一方の収入を一定額まで合算できる収入合算もあります。
家族の力を合わせて、後悔しない方法を選択していきます。
終わりに|完済まで無理のない計画を立てよう
審査基準を理解することで、審査の不安を軽減することができます。
仮に返済が難しいと感じたときは、住宅ローンの返済プランを変更することや、収入に応じた借入額に調整することができます。
というのも、基準を知ることで審査が通りやすい借入額を逆算できるからです。
これは、借入可能な金額に合わせて適切な住宅を選択することや、無理のない支払いプランの検討をも可能とします。結果として、ライフスタイルや予算に合った物件を見つけやすくなるでしょう。
住宅ローン審査について考える際、通過するかどうかだけではなく総合的な視点で向き合うことが大切です。
金融機関の住宅ローン商品について調べたり資料請求することで、しっかりと比較することで、住宅購入の満足度を高めていきましょう。